闇の中に、眠る姫君。

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「……本当にそうなんでしょうか」 するりとこぼれ落ちた言の葉に、大河(おおかわ)が眉根を寄せる。 「なんや、お嬢さんは“違う”って言うんか」 キャップのつばの向こうからギラリと大河が(にら)む。 「……違う、と言いますか」 琴音(ことね)はしどろもどになりながら、なんと答えるべきか逡巡(しゅんじゅん)した。 「……大河さまは、だれのために、ものづくりをされているんですか?」 「は?」 予想外の問いに、大河の目が点になる。琴音は、少し緊張した面持(おもも)ちで、ゆっくりと口を開いた。 「いまや世界を代表する、とある日本車メーカーの創業者は、ある時、奥さんが大変な思いをして、自転車で遠くまで買出しに行く姿を見て、“妻を楽にさせてやれないか”という想いから、自転車の補助動力として使うエンジンを考え出しました」
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