4890人が本棚に入れています
本棚に追加
「今月の売上トップは、また“いばら姫”かよ」
一斉配信された社内月報を一瞥し、加藤は忌々しげに舌打ちをした。つまんねぇの、と吐き捨てるように言って席を立つ。
「加藤係長、“いばら姫”ってなんですか?」
隣のデスクで資料準備を手伝っていた新入社員の三井拓海が、好奇心いっぱいに尋ねる。
先月入社したばかりの新入社員は、自社理解と本人の適性を見極めるため、配属が決まる7月まで様々な部署での業務を経験している。
営業部には、現在ふたりの新入社員が籍を置いていた。
「あー、“いばら姫”っていうのはな……」
タバコをくわえながら、加藤は下卑た薄笑いを浮かべる。
「茨木だよ。愛想のかけらもないくせに仕事を取ってくるから、一体どんな手を使っているんだか」
「茨木さんやから、“いばら姫”なんですか?」
あのとげとげしい女にピッタリのあだ名だろ、と笑いながら、加藤は部屋を出て行った。
本日何度目かわからない、煙草休憩だ。
最初のコメントを投稿しよう!