森の奥には、ふたりの王子。

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「今月の売上トップは、また“いばら姫”かよ」 一斉(いっせい)配信された社内月報を一瞥(いちべつ)し、加藤は忌々(いまいま)しげに舌打ちをした。つまんねぇの、と吐き捨てるように言って席を立つ。 「加藤係長、“いばら姫”ってなんですか?」 隣のデスクで資料準備を手伝っていた新入社員の三井(みつい)拓海(たくみ)が、好奇心いっぱいに尋ねる。 先月入社したばかりの新入社員は、自社理解と本人の適性を見極めるため、配属が決まる7月まで様々な部署での業務を経験している。 営業部には、現在ふたりの新入社員が籍を置いていた。 「あー、“いばら姫”っていうのはな……」 タバコをくわえながら、加藤は下卑(げび)た薄笑いを浮かべる。 「茨木(いばらき)だよ。愛想のかけらもないくせに仕事を取ってくるから、一体どんな手を使っているんだか」 「茨木さんやから、“いばら姫”なんですか?」 あのとげとげしい女にピッタリのあだ名だろ、と笑いながら、加藤は部屋を出て行った。 本日何度目かわからない、煙草(たばこ)休憩だ。
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