くちづける王子と、恋に落ちた。

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********** 大阪出張の翌週。報告書を書きながら、琴音(ことね)は知らず知らずにため息をもらした。 社内恋愛は、気恥ずかしさとともに、どこか後ろめたい気持ちを抱かせる。 仕事と恋愛という二律(にりつ)背反(はいはん)する事象が、同じ場所に存在しているからだろうか。 「茨木(いばらき)さん。提案書を見てもらってもいいですか?」 難解な間違い探しのように、先週とまったく変わらぬ態度で保志(ほし)が琴音のデスクにやって来る。どぎまぎする琴音とは対照的に、彼はいたって通常運転だ。 「相沢(あいざわ)精機(せいき)協働(きょうどう)ロボットを売りこみたいんですよね」 展示会に足を運んでくれた医薬品原料メーカーが興味を持ってくれたというのだ。 展示会の応援に、わざわざ京都から応援に駆けつけてくれた(みなと)係長に朗報を届けたい。そして、輸送費の百万円が無駄でなかったことを証明しなくては、と琴音は自らを律するように力強くうなずく。
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