4894人が本棚に入れています
本棚に追加
それは、水族園の後に訪れた六甲山でも同じだった。神戸から関西国際空港まで一望できる眺望スポットを訪れたふたりの間には、いまだに微妙な距離感を保たれている。
「やっぱり、夜になると冷えるわね」
日中は暖かい日もあるのだが、夜はまだまだ冷え込む。山頂はなおさらで、琴音はコートの襟を握りしめて、白い息を吐いた。
「……着いたばかりですけど、もう帰りましょうか」
気遣わしげに問えば、琴音は静かに首を振る。
「……あと、少しだけ」
そう言って、鼻先で両手をすり合わせた。手袋を忘れてしまったらしく、彼女の手は磁器製人形のように青白い。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫よ」
最初のコメントを投稿しよう!