【番外編】深夜残業、オフィスにふたり

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高速のタイピング音が、静まり返った室内に響く。空調を切ったものの、晩春の夜はまだ冷え込む。琴音(ことね)は凝視していたパソコンのモニターから顔を上げると、羽織(はお)っていたカーディガンの前をギュッと握った。 「寒いな……」 つぶやきは、だれもいないフロアに溶けていく。蛍光灯の明かりは必要最小限にとどめており、琴音のデスク周辺以外は真っ暗だった。 「……」 煌々(こうこう)と輝くモニターの明かりに照らされた横顔には、疲労の影がにじむ。 琴音は現在、少しばかり難易度の高い案件をかかえていた。もちろん、課長の四宮(しのみや)もフォローしてくれてはいるのだが、いかんせん業務量が減るわけではない。そのため、ここのところ残業が続いていたのだった。 お腹、空いた……。
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