4894人が本棚に入れています
本棚に追加
高速のタイピング音が、静まり返った室内に響く。空調を切ったものの、晩春の夜はまだ冷え込む。琴音は凝視していたパソコンのモニターから顔を上げると、羽織っていたカーディガンの前をギュッと握った。
「寒いな……」
つぶやきは、だれもいないフロアに溶けていく。蛍光灯の明かりは必要最小限にとどめており、琴音のデスク周辺以外は真っ暗だった。
「……」
煌々と輝くモニターの明かりに照らされた横顔には、疲労の影がにじむ。
琴音は現在、少しばかり難易度の高い案件をかかえていた。もちろん、課長の四宮もフォローしてくれてはいるのだが、いかんせん業務量が減るわけではない。そのため、ここのところ残業が続いていたのだった。
お腹、空いた……。
最初のコメントを投稿しよう!