【番外編】ねえ、呼んで

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初めてのデートの日、待ち合わせ場所で旺佑(おうすけ)をナンパするおねーさんに向けて、嫉妬(しっと)牽制(けんせい)の意味を込めて呼ばれた、たった一度の“旺佑くん”。 それはそれで、うれしかったのだが、後が続かない状況を、彼はなによりも懸念(けねん)していた。 「……えっと、だって、間違えて会社で呼んだら恥ずかしいじゃない」 「間違えてもいいじゃないですか」 むしろ間違えてほしい、という希望は、そっと飲み込むことにした。心の余裕のなさを、わざわざアピールする必要はないだろう。 「それに、公共の場では、オレもちゃんと“茨木(いばらき)さん”って呼んでますよ」 「……」 記憶を手繰(たぐ)り寄せているのか、しばし沈黙の琴音(ことね)。ややあって、「そう……ね」と歯切れの悪い返事があった。
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