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鳴動する携帯電話に気を取られた瞬間に、琴音がスルリと腕から逃れたのだ。
このタイミングで! と思わず舌打ちしそうになったが、画面に表示された見慣れぬ名前に、わずかに目を瞠る。
「ほ、保志くん、ほら、出かけましょう!」
テーブルの上のカップを片づけるため、いそいそと立ち上がる琴音を一瞥し、旺佑は短く息を吐く。
「……はい」
触れただけの唇が、わずかに感じた温もりが、もっと欲しくてたまらない。
中途半端にキスなんてするんじゃなかった。
ため息をつきながら、旺佑は携帯電話を操作する。ディスプレイに通知されたのは“茨木千咲”の名前。
──なんの用だ?
《旺佑くん……》
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