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淀みなどまったく感じさせない声が響いた。
末っ子だった旺佑は、大人になったいまでも、“小さな男の子”のように扱われることが多い。そんな彼が、決意を宿して宣言したのだ。
もしも、旺佑が女の子であれば、「どこの馬の骨かわからぬ男に、かわいい娘を嫁がせるか!」と昭和なガンコ親父を演出してもよかったのだが、あいにく彼は息子である。
しかも、“どこの馬の骨”と呼ぶには、茨木琴音のことを、よく知っていた。彼女の採用にあたり、最終面接を行ったのは、ほかでもない社長の冬馬なのだから。
──反対する理由など、まったくない。
「茨木琴音さん」
「はい」
名を呼べば、すぐに彼女は返事をした。
凛とした透き通った声。だが、長いまつ毛に縁取られたその瞳が、不安げに揺れたことを冬馬は見逃さなかった。
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