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そんなこともあったな、と冬馬も懐かしさに目を細める。活発で負けず嫌いな旺佑は、なにかにつけてケガをしていた。
もっとも、頭を縫うようなケガは後にも先にもこの一回限りで、この白いネット包帯が、メロンの梱包に用いられるネットキャップに似ていたことから、森埜家においては、この事件を“憂鬱なメロン”と呼んでは、笑い話としていた。
「…………だから、転んだんだって」
何度尋ねても、その真相を話すことのない旺佑。事件から十数年経過したが、あくまで“転んでドアに頭をぶつけた”と主張する。
「あら。そうだったわね。そういうことだったわね」
ふわりと笑う母に、息子はばつが悪そうに視線を逸らす。わかるよ、旺佑。それが、男の矜恃ってやつだ。まして、好きな女性の前で披露されたくはないよなぁ。
アルバムのページをめくれば、次はサッカーの試合の写真だ。真新しいユニフォームに身を包んだ旺佑の頭にはネット包帯。
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