【番外編】おとうさんも一緒(再び)

24/25
4878人が本棚に入れています
本棚に追加
/579ページ
社長はご在宅ですか? 嫣然(えんぜん)と微笑して、彼女が首を(かし)げる。 うわ。 冬馬(とうま)少年はそのとき、心臓を鷲掴(わしづか)みされたような気分を味わった。信じられないぐらい胸が早鐘(はやがね)を打つ。 恋は落ちるものだ、とひとは言う。 彼はこの日、保志玲子に恋をした。茶封筒を片手に父を訪ねてきた、地味なスーツに身を包んだ七歳年上の女性に()れたのだった。 「私と初めて会ったときのこと、覚えているかしら?」 ニッコリと笑って問うてくる妻に、冬馬は「どうだったかな」とお茶を(にご)す。のあれやこれやを、思い出させるのは正直勘弁してほしい。 息子のを生温かい目で見守るのは楽しいが、いざ矛先(ほこさき)をこちらに向けられると、どうも居心地(いごこち)が悪い。
/579ページ

最初のコメントを投稿しよう!