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「そして、奥さんが乗っているエンジンつき自転車を見た人が、次々と“そのエンジンが欲しい”と当人の元を訪れたそうです。それが、会社設立の契機となり、現在も愛される製品の誕生につながったと言います」
大河はなにも言わず、ただじっと琴音を見つめている。
「ビッグデータの活用で、非ルーチン作業だと思われていた仕事をルーチン化することが可能になりつつあると言います。そのせいで、“消える職業”があるとも」
例えば、「医療診断」。何十万件もの医療報告書、患者記録や臨床試験、医学雑誌などを分析し、コンピューターが患者それぞれに合った最良の治療計画を作ると言うのだ。
「情報を集めること、まとめることは、人間よりもコンピューターが得意としています。でも……」
琴音は、大河の目を見た。
「“だれのために”、“なんのために”という想いは、ひとにしかわからないと思うんです」
終戦後、放置されていた陸軍の無線機を動かすためのエンジンを何かに使えないかと考えていたある男が、“奥さんのために”、そのエンジンを改良したように。
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