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ミケは長い尻尾を冷たい布団にくっつけないようにピンと立てながら、当たり前のように布団の中にゆっくりと忍び込んだ。ミケがいる部分だけ布団がこんもりと膨れ上がった。なんとも太々しい。
美来は、南側にある窓を開けた。昼間、太陽と共に快晴だった空は、夜になっても快晴で、今は幾多の星々が輝き放って新年を迎えている。「さぶい、さぶい」と言いながら、窓から上半身を乗り出して辺りを見回ってみる。眼下に初詣に向かう人々の声がする。近所の氏神様へとダウンコートのシャカシャカとした衣擦れの音と笑い声が続く。天上一面の輝きの下、一本の人の道が賑やかに流れ動く。美来は氏神様に背を向けた。赤ドテラのボロアパートは、確かこっちの方角だっけ、と。眼下の喧噪とは打って変わり、ポツポツと幾つかの白い灯りが、しんと静かな夜の中で新年を迎え入れているのが見受けられるだけだった。
美来は窓を閉めると、暖房のスイッチを入れて、勉強机の前に座った。机の前に座ると、少しは参考書でも開いてみようかといつも思うが、思うだけで参考書には手を伸ばさない。その代り、机の下に片付けている母が使っていたソーイングボックスを机上に置いた。猫の膨らんだベットをちらっと見て、部屋の灯りを消し、机のライトを点けた。この瞬間が、美来が一番ほっとする瞬間であり、物を創るという確かな高揚感に満たされる瞬間でもあった。
クラスでは、成績も見た目もそう他の生徒達とあまり変わらない。仲良し二人の美来を含めた三人組で休み時間をダベってやり過ごし、週末には遊びにも繰り出す。そのうちの一人に彼氏が登場し、勿論、恋愛の話しで盛り上がったりもする。女子高に通う彼女達にとっては、友達がもたらす男女間のエゲツナイ話は、行き過ぎのようでもあり、成長過程でもある。つまり、それは当り前に健全で、要は、三人共に取り立てて目立つ存在ではないということだ。
ライトを点けると、本当の意味で一個人の個の中に埋没出来る時間が訪れる。
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