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最初のアイデアに沿ってチクチクと針を動かす。リズムに乗ってくると、頭の中の何処からか、配色やデザイン、造形、手触りなど色んなアイデアが次々に浮かび上がってくる。それらに、テーマやメッセージといった何故その色を選び、そのデザインにした、という意味付けをする。だから、完成した作品が、こういう風に出来上がったんだよ、と話しかけてくる。美来はアドレナリンで満たされる。出来上がった作品の意味を誰かと共有出来たら、この上なく幸せだろうと思いながら創る。布の特性や織り方、染色などの知識があれば、もっと適した作品が出来るのではないか、生活全体が効率的で豊かになるのではないか、とも思う。
誰に習った訳でもないが、出来上がった作品は、いつもまずまずだ、と自分では思う。人に見せびらかす機会はない。恥ずかしいというより、鼻で笑われそうで嫌だ。アイデアの中には、縁結びと学業のお守り、捨てられない大吉のおみくじをまとめて収納できる開運袋などがある。本当は、三つ色違いで創って、仲良しの二人にそれぞれ渡したいくらいだ。
使い慣れたソーイングセットの中身も綺麗に整頓され、それでこそ使い勝手が良い。美来は、端切れ布を細長く切り整えた。
「ちょっとごめんなさいよ」
布団をめくると、モワンと温かい。顎の下を撫でるついでに首回りも撫でる。丸まっていたミケが、ゴロンと腹を出して首を伸ばした。
「あんた、もううちの子になっちゃえば。私はわがままでもないし、至って普通のいい子だよ」
グリグリとほっぺたを撫でると、ミケは目を閉じたまま、美来の掌に沿うように頬を乗せてきた。喉がグルグルと鳴っている。
美来にとっては、お茶の子さいさいだった。翌朝目覚めると、湯たんぽ代わりだったミケはもう布団の中にはいなかった。腕を胸の前で交差させ、掌を反対側の脇の下で温めながら階段を降りた。
「おはよう。明けましておめでとう」
台所は既に暖かい。
「おや、おはよう。起きたのかい?明けましておめでとう。あんた、何時までこれ、縫ってたの?」
美嘉ばあは、ふうふうと雑煮の味見をしながら、息継ぎのついでに矢継ぎ早に言った。
「そんなの一時間も掛からないよ」
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