第1章

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「美嘉ばあ、あの人、子供のラジコン奪って遊んでるよ!」  赤ドテラは両手で操作機を操り、子犬が小学生にじゃれつくように黒い車のラジコを足元に出したり引いたりしている。公園を散歩していたチワワがビックリして、吠えながら赤ドテラの足元に飛び掛かった。「すみませえーん」と慌てて駆け寄る飼い主。「やらせて、やらせてよおー」と手を伸ばす小学生達。小刻みに足を振り動かして犬を弄び、両手を高く上げ、小学生達を無視する赤ドテラ。 「あいつサイテー!」  美来は呟くと、微かに鼻を突いたインクの匂いで視線を公園から離した。コートの襟を立てたサラリーマンが、筒状のカレンダーを小脇に抱え、小走りで二人を追い抜いて行った。巻き起こった冷たい風に目を細め、美来はサラリーマンのベージュのコートの中を見透かそうとした。  今日、お父さん、忘年会だっけ・・・。 「スッゲェー!!」  風に乗って子供達の歓声が一際大きく耳に響いた。向かい風にすぼめた目を見開いて公園を振り返った。黒い車が、勢い、宙で一回転して着地したかと思うと、小学生達を右に左に蹴散らした。 「ちょースッゲェー、ラジコン神!!」  車の動きに合わせてこちらに向きを変えたラジコン神赤ドテラは、ニンマリと口角を吊り上げ、得意気に笑っていた。神は一向に取り巻きの小学生達へ操作機を譲る気はないらしい。  大人気ない!あのチワワがヨダレダラダラの大型犬ならいいのに!  と美来は、気忙しさと寂しさも手伝ってか、眼光鋭く軽蔑の眼差しを送った。 「赤いの着て子供達に囲まれて、サンタクロースみたいだね」  お決まりのクリスマスソングが商店街の方から聞こえてきた。  クリスマス当日の中途半端な午後、ラジコン神赤ドテラは、むしろおもちゃをプレゼントされた子供のようにとても嬉しそうだった。  その晩、初雪が舞ったのを美来は気付かなかった。  先生でなくても走る師走。父親と小競り合いをしていたせいで、昼前に行くという約束がとっくに正午を過ぎてしまった。美来は、歩いて二分とも掛からない美嘉ばあの家まで走る。 「美嘉ばあ、生きてるう?パンツとパジャマ、洗面所に置いとくねー。あと、新しい歯ブラシもー。お父さんは自分の部屋の大掃除してから紅白の頃来るって。どさくさに紛れて私の部屋まで掃除しようとするんだよ、バカオヤジ!」
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