第1章

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「そうなの?何処かですれ違ってたか知れないね」  幸は「はい」とだけ頷いて残りのお茶を啜り上げると、チャーを膝の上に抱きかかえた。 「お風呂もお茶もご馳走様でした。良いお年をお迎えください。チャー、行くぞ」  と丁寧にお辞儀をし、炬燵から出ようと布団を軽く上げた時、チャーがすかさずゴソッと炬燵の中に潜った。 「へっ・・・」  太腿辺りに肉球がグニュ。胡坐をかいて座っていた美来の丁度両足を組んだくぼみ部分にチャーがデカい体を丸めて収めた。  お、重い・・・。  幸はチャーを掴もうとした両腕を思わず引っ込めた。 「おまえ、風呂入った上に、そんなところで寝るな!あ、いや、すみません。そんなところって、あの」  美嘉ばあが炬燵布団をめくり、ケタケタと笑う。 「幸君、お正月はご実家に帰るんだろう?チャーも連れてくの?大変なようなら正月の間くらいここに置いてってもいいんだよ」 「美嘉ばあ、うちで預かったら、お正月に飼い主の方はチャーに会えなくて寂しがるよ」 「ありがとうございます。でも、レポートがあるから実家には帰らないですし、チャーはもうほぼほぼ俺が飼い主みたいなもんですから。チャー、こら、帰るぞ」  チャーが炬燵布団から顔だけ出して「ウオッ」と鳴いた。熱いと言ったようだった。 「うちにいるなら、チャーはミケよ」  美来はチャーの顎の下を撫でながら言った。「なんだい、それ?改名するにしたって、茶トラに三毛なんて、この歳になって生まれて初めて聞いたよ。バカなこと言うね、この子は」 「だって、美嘉ばあちゃんに、お母さんが美紀で私が美来だから、次はケしかないでしょ。猫なんだし」  まあ、こちらも今時の猫の名前には、ダサいと言えばダサいが・・・。 「ミケって呼ぶと返事するよ。ねえ、ミケ」 「ニャー」 「おおお」と三人は顔を見合わせた。 「じゃあ、炬燵から引きずり出すのもなんなんで・・・実は俺もこの間からどうも風邪っぽいので、今晩は預けて帰ってもいいですか?ちょっとレポートと大家さんのお孫さんのラジコン修理で根詰めたみたいで。おまけに家庭教師のバイトがこれから一件あるから、チャーも大晦日をこちらで過ごせるなら幸せです」  まあ、ペットは家族同然だからなあ・・・。 「あらまあ、大晦日にも家庭教師のバイト?」
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