第1章

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「はい。塾にも通ってて、俺の家庭教師は大晦日の今日までですけど、西京大理工が第一志望の受験生なんで、先生がそこの学生ってだけで、この時期、励みになるみたいです」 「なるほどねえ、精神的にも追い込みの時期だね。美来も来年は受験生だから、少しは見習わないとね。幸君もあまり無理しちゃダメだよ。チャーは預かっておくから、一段落付いたらおいで。雑煮、取っとくから」  ラジコン奪って遊んでいた訳ではないことは分かったけど、こいつの正体は依然として謎だよ、美嘉ばあ!西京大とか嘘言って、変な猫を操って家の間取りとか家族構成とか調べて、後々盗みに入る新手の押し込み泥棒かも知れないよ、美嘉ばあ!と美来は美嘉ばあが悠々とお茶を啜る横顔を覗き込んでは、胸のうちで毒付いた。 「それじゃ、宜しくお願いします」  美嘉ばあから視線を外し、美来が声のする方に振り向くと、赤ドテラは炬燵を出て、美来の横にしゃがみ、今やミケとなったチャーの顎をくすぐっていた。 「お言葉に甘えて、明日の夕方頃に迎えに来ます。ミケ、それまで大人しくしてるんだぞ」  美来は少し体を逸らせて、赤ドテラがミケを撫でるスペースを作った。  元旦の家族団らんを気にして夕方と言ったのだろうか・・・?この人は寂しくないのかな・・・?それとも他に約束とかがあるのかな・・・?  まあ、どうでもいいや・・・それより、赤ドテラの黒いビロードの首元もほころんでいる・・・。  美来は、赤ドテラの首元に視線を移した。 横顔が少し熱っぽいのは赤ドテラなのか、自分なのか美来は混乱した。  で、なんで押し込み泥棒の可能性のある赤ドテラのほころびを縫い直してあげたい、とか私は思ってる・・・?  大晦日の夜は静かに更けていった。紅白とお笑い番組を適当に交互にチャンネルを変えて見る。父は早いうちから酔っ払っていた。時間になると、年越しそばを三人分作って食べる。毎年のことだ。美来にとって、物心付く頃から、これが年末年始の過ごし方だった。  幼い頃は、線香の香りを放つ隣の仏間が怖かった。祖父や母の遺影が飾ってあっても黒い仏壇に吸い込まれそうな気がして不気味だった。その中心で白い煙を立てる線香が体に巻き付いて、引きずり込まれそうな感じがした。今年も変わらぬ線香の香りが沁み込んだこの家で、祖母と父と柔らかく過ごすのだ。
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