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さて、密かに狙っていた男を親友に取られ、あたしが落ち込んだかといえば、そんなことはない。あたしは心の奥では夢物語を信じていなかったのだ。が、夢物語の方があたしに接近してくれば話が変わる。けれども、それもまた、あたしの勘違いかもしれない。いや、おそらく勘違いだろう。あたしが男にモテるわけがない。
同期入社し、同じ勤務先となった新人三人で飲んでいたときのことだ。
「結婚相手を間違えたよ」
浜野佳一が、あたしに言う。もう一人の社員、鳥羽久一(とば・きゅういち)がトイレに立った直後だ。
「川原さんみたいな人にしておけば良かったな」
「あたしの親友を×一にしてといて良く言うよ」
「そうだな。そのことについては、ひたすら謝るしかない」
「まあ、不美子の性格がアレだから、まるで気にしていないけどね」
「本当に、そうなんだな。やっぱりガッカリだよ」
「最初から、こうなることがわかっていたら、あたしが止めたけどね。だけど、あたしは神様じゃない」
「恋自体は一世一代だったんだけどな」
「それは見ていてわかったよ」
「でもさ、結局、彼女は、おれのことを少しも好きになってくれなかった」
「だけど嫌ってもいなかった」
「それが、せめても……なのかな」
「比較的早めに気づいて良かったんじゃない。まあ、もっと早めに、結婚する前に気づけよ、とは思うけどさ」
「だってさ、おれのことを好きになってくれる、と信じたから……」
「そりゃあ、先に惚れた方は、そう思うよ」
「どうして彼女のことを好きになったんだろう」
「偶々でしょ」
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