4 想

1/4
前へ
/232ページ
次へ

4 想

 その数日後、会社の帰りが一緒になり、あたしと浜野佳一が会社の最寄駅まで二人で歩く。午後八時過ぎのことだ。 「そういえば、川原さん、彼女と一緒に暮らしているんだってね」 「ああ、うん。家賃が割安だから……」 「苦労して見つけたんだよ」 「夫としては悪くなかった、と思うよ」 「気になるかもしれないから先に言っておくけど、あそこ、ヤバイ物件じゃないから……」 「へえ、そうなんだ。だけど、あたしはてっきり……」 「大家が金持ちで多くの物件を安く貸してるんだよ」 「へえ、貴重な人材」 「おれも、そう思う。本当に正しいお金持ちだな」 「あたしの方も気になるかもしれないから言っておくけど、浜野くんとの夜のことは不美子に聞いてないから……」 「ああ、そう……」 「不美子は他人のことを簡単に触れまわる人間じゃないし、あたしも興味本位で聞かないし……」 「ありがとう、気遣ってもらって……」 「二人とも幸せそうなら聞いたかもしれないけどね」 「まあ、それなら、こっちから話したかもしれないけどね」 「ねえ、不美子が処女じゃなくて驚いた……」 「驚きはしなかったけど、意外だな、って……」 「遊びまわってたわけじゃないよ」     
/232ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加