5 妄

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 だから浜野佳一を相手に選んだ妄想でも、抱かれるシーンは入れるが、翌日の朝のことなどに思いを馳せる。コーヒーか紅茶か、あるいはルイボスティーでも良いが、何を飲ませてくれるのか、を妄想する。浜野佳一が離婚して、まだ二月も経っていない。だから実際に二人がそんな関係になれば、かなり恥ずかしい。奇異の目で見られる可能性もある。まあ、あたしが入社した時から浜野佳一のことを目で追っていたのは勘の良い人にはわかっていたはずだから、『川原さんが押し切ったのね』と見られる可能性は低くないが……。  けれども、そうなれば、あたしは社内で恥かし過ぎる。が、そうなる可能性がかなり低いので、妄想くらいは許してよ、と安易に考えることにする。もちろん秘かに妄想するだけで誰かに明かすことは決してない。多分気にしないだろうが、不美子にも恥かし過ぎて明かせない。つまり虚しい妄想だ。が、妄想とは所詮、虚しい行為ではなかろうか。あたしの感じでは、運よく抱かれた男に気に入って貰いたくて、感じているフリをするのと大差ない気がする。  ……と、そんなことを考えていると妄想する気が失せるので、できるだけ余計なことは考えない。  あたしの会社は郊外にあるので通勤が楽だ。行き帰りのラッシュアワーに遭遇しない(まったく込まないわけではない)。つまり電車の座席に座れるということで、だから妄想することもできる。立ったまま妄想できるのは強者だけだ。とても、あたしには真似ができない。また適度な眠気があると妄想し易い。精神の緊張が解れるからだ。     
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