第一章「恋は偶々……」  1 友

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「わたしに言わせれば、彼の望み通りに結婚してあげたのだから、それで満足しろよ、となるわよね。家事だって分担したし、夜の行為にも付き合ったし……」  友人の言葉を聞き、あたしは、ああ、これはダメだ、と思うしかない。 (だけどさ、旦那さんの気持ちもわからないでないわね。アンタの方もちょっと可笑しくない)  ……と、あたしは友人に伝えない。言っても通じないと思えたからだ。  考えてみれば、あたしの友人は昔からそんな性格だ。友人の夫となった男が友人のことを好きになったのは事故だとしても、わたしの友人は男――浜野佳一(はまの・よしかず)――からのプロポーズを受けるべきではなかったのだ。 『慰謝料は、きみの望み通りに支払う。だから離婚してくれ。この通りだ』 『頭を上げてください。それでは、この部屋からの引っ越し代と最初の家賃を頂くことにします。わたしは結婚式の費用は分担していませんし、結婚してからも共同生活費以外は別会計ですし……』 『驚いたな。それは離婚に同意したと言うことか』  友人はここで、参ったな、と感じたという。 『夫が自分勝手に離婚を切り出したのに怒りもしないのか。愛情の欠片もないわけか』 「いや、彼が自分で、それを感じたんでしょ、しかも、それが正しかったわけじゃない。何が御不満……]  ……と友人は、あたしに言う。     
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