5 妄

3/4
前へ
/232ページ
次へ
 子供の頃は眠りにつく前に様々な妄想(想像)をしている。当時の妄想は御伽噺的な内容だが、恋愛的要素がないわけでもない。好きだった男の子と魔法の国を冒険したり、戦ったり……。そのまま眠って続きを見ることがあれば、朝、それを覚えていることもある。  あたしの場合、不思議なのは、夢なのだから好きな子とくっつけば良いものを、何故かくっつかないところか。大抵、彼に似合うお姫様――に限らないが――器量の良い娘が現れ、あたしは彼をその村(町/国)に残し、冒険を続ける。本当は次の冒険などしたくないし、彼に想いを告げたいのだが、それができない。  成功体験を経験しない人間の典型例のようだ、と我ながら思う。斯くて、あたしは可愛げのない女に育ったのだ。何故か、同性からはモテたが、それも可愛げのない女の現れだったのかもしれない。  ……と、そんなことを延々と考えているから、あたしは妄想に浸れない。それなら仕事のことでも考えていた方がマシ、と思いを切り代えると声をかけられる。 「まさか、明里さん」  聞き覚えのあるハスキーな声だ。あたしが目を開けると、そこに顔がある。 「ごめん、起こしちゃった……」 「今野くん、顔が近い」  あたしが高校生の頃に暫く付き合った相手、今野聖が目の前にいる。 「久しぶり、今野くん」 「少しは驚けよ」 「ああ、吃驚した」 「明里さんに言っても無駄だった。隣に座ってもいい」 「どうぞ」 「じゃ、遠慮なく」 「あんまり、くっつくなよ」     
/232ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加