27人が本棚に入れています
本棚に追加
6 験
斯くして、あたしは今野聖と飲みに行くことになる。一応、アパートに電話をし、不美子がいるかどうか確認する。が、まだ帰っていない。それで不美子自身に連絡をしようかどうか、あたしが惑う。別に惑う必要はないのだが、あたしの勘繰りが生んだ気後れのようなものだ。
今野聖が高校生の頃、あたし付き合ったのは刈部不美子に近づくため、という当時のあたしの考えに由来する。その証拠かどうかはわからないが、今野聖とあたしは何となく疎遠になり、別れている。今野聖にあたしへの執着があったなら、そんな別れ方はしなかったはずだ。まあ、あたしが思うだけだが……。
結局、不美子には連絡をする。その前に今野聖に事実を告げる。
「今、あたし、刈部不美子と暮らしてるのよ」
「何それ、明里さん、レズだったわけ」
「まあ、そう思われるのも無理ないよね。最初にルームシェアを提案したときは、まるで考えもしなかったけど……」
「何だ、ただのルームシェアか」
「一応、不美子に連絡するから……」
その時点でもう,今野聖とあたしはS駅改札の外にいる。何本かある大きな柱の前だ。
「ああ、不美子、今いい」
電話に出たから、不美子の仕事は終わったのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!