6 験

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「今野くんは顔が大人になったよ。当時は童顔だったから……」  そんな会話をしながら乾杯だ。安い居酒屋だと人の声が飛び交い、会話ができない。それで、干物屋――だから正確には定食屋か――を選ぶ。時間的に人は多いが、天井から声が跳ね返って来るようなことはない。だから大声を出さなくても会話ができる。 「例の干物屋に決めたから、気が向いたら来てね」  不美子にも忘れず、メールを送る。 「ああ、ビールが仕事の疲れを吹っ飛ばすわ」 「明里さん、今、何をやってるの」 「中小企業でモノ作りですよ」 「そういえば理系だったね」 「今野くんは……」 「こっちは中小の商社の営業だよ」 「ふうん」 「主に海外要員だな」 「じゃ、英語はペラペラだ」 「ジャングリッシュ(日本語訛りの英語)だけどね」 「でも、通じてるんでしょ」 「時々通じてないこともあるよ」 「それってマズくない」 「相手が気付かなけりゃ問題ない」 「今野くん、やっぱり性格が変わったでしょ」 「うん、海外に行って変わったよ。東アジアに行ってタフになった」 「ウチは中国に進出してるけどね。だけど臨床系だから販売許可を得るのに物凄いお金を取られる」 「ああ、中国は、ね」 「あと、EUも法律ガチガチで……」 「これまでの日本が甘過ぎたから……」     
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