第一章「恋は偶々……」  1 友

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「その後でキレなかったんだから、優しいご主人で良かったじゃない」  「代わりに泣きだしたからね。人間として情けないわ」  結局、早々に、あたしの友人の(今では)元夫が部屋を出て行くことになり、一人で暮らすには広過ぎる部屋から友人も引っ越そうと考える。そこに、あたしがルームシェアを申し込む。何故かといえば、友人から聞いたその部屋の家賃が安く――有能な夫じゃないか――、二分割すれば今のわたしのアパートの家賃を下まわったからだ。 「確かに更新のときにも百円しか上がらなかったし……。実は不味い物件じゃないかな」 「不美子(ふみこ)は、ここに引っ越してから幽霊を見た……」 「いや、一度も……」 「ならいい」 「でも自殺者がいたのかもしれないじゃない。明里(あかり)は気持ち悪くないの……」 「不美子は気持ち悪くないのかよ」 「いや、わたしはそういうのを気にしない」 「じゃ、あたしも気にしない」  あたしたちの共通の友人、大室(おおむろ)――何故か綽名が苗字、名前は佳奈(かな)――は、そういうのを凄く気にするが……。 「そう。それで、いつ越して来るわけ……」  「できれば明日にでも……」 「せめて次の休みの日にしない」 「じゃあ、そうする」     
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