第一章「恋は偶々……」  1 友

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 が、引越屋の手配が付かず、結果的に、その次の週まで転居は延期だ。引っ越しシーズンの最中だったから時期が悪い。それが二週間前のこと。だから、あたしは今、友人の部屋……というか、友人とルームシェアをしている部屋にいる。友人の元夫との電撃離婚の真相を聞いたのは、あたしがこの部屋に引っ越してからのことだ。 「わたしは構わないけど、愛し合ってもいない人間が一緒の部屋に暮らすのってシンドくない。明里は大丈夫……」 「ちょっと、何、それ……。まあ、確かにあたしと不美子は愛し合っていないけどさ」 「で、ついでに訊けば、まったく余計なお世話だけど、明里は結婚しないの。……っていうか、恋人とかはいないの」 「アンタと違って綺麗じゃないからね」 「明里より見栄が良くない女及び男でも大勢結婚していると思うけどな。性格が悪いんじゃない」 「不美子に言われたくないわ」 「わたしの性格はあっさりしているぞ。元夫が証言したからね」 『キミは性格があっさりし過ぎている。今更おれが口を出すことではないが、その点は治した方が良いと思う』  ……わたしの友人、刈部(かりべ)不美子の夫は正式な離婚の席で不美子に言ったらしい。そのとき不美子は、今更それを言われてもねえ、と思ったという。結婚を前提に付き合っている期間に何故、気づかなかったのか、ということだ。 「余程のことがないと、持って生まれた性格は生涯変わらないらしいから……」 「だからそれ、アンタにだけは言われたくないわ」
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