2 泣

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 一方、あたしには恋人がいたが、実のところ、あの男、今野聖(こんの・きよし)は不美子に近づきたくて、あたしと付き合い始めた、と今では勘繰っている。あたしが不美子の友人だったからだ。不美子には友人と呼べる仲間が少ない。おそらく、あんな性格だからだろう。それで、今野聖はあたしに近づいたのだ。  それでも学校という特殊な環境内にいた頃は不美子も多数の友人を持つ。が、学校を終えれば、嘗ての友人たちが友人モドキに変る。  因みに『もどき(擬、抵牾、牴牾)』とは、批判や非難などを意味する動詞『もどく』の名詞形だ。転じて、(日本の芸能分野において)主役や以前に演じられた劇を真似したり揶揄したりする滑稽芸の意味を持つ。能の『翁(おきな)』に対する『三番叟(さんばそう)』や、江戸里神楽の『ひょっとこ』『おかめ』などが、それに当たる。名詞の下につけて、似て非なるモノや匹敵するモノを指す用途もある(今回の場合)。精進料理のもどき料理(がんもどきなど)や生物の和名(ウメモドキ、サソリモドキなど)で良く知られる。  不美子とあたしは高校一年生のとき、同じクラスの生徒として出会う。偶々だ。あたしの苗字が川原(かわはら)で不美子が刈部だから席順も近く、授業で班になることも多い。それで何となく友人になるが、社会人になった今でも友達付き合いが続いている。     
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