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……と呟き、不美子が物思いに沈んだ表情を見せる。不美子は睫毛が長く、更に夏の太陽がそれに反射し、美しいことこの上ない。教室の中には、あたしと不美子の二人だけ。あたしが男なら一目惚れしてしまっただろう。いや、あたしはあのとき、不美子に一目惚れしたのかもしれない。自分の中に暫く可笑しな感情が浮かんだのだから……。
それはともかく……。
『別に隠しているわけではないけど、積極的に話したい内容でもないな』
『不美子が厭なら別に話さなくてもいいよ』
『わたしには明里が他人から聞いた話を誰彼なく触れまわるとは思えない』
『まあね』
『中学生の頃、わたしには好きな人がいた』
『何、マジかよ、それ……』
『続きを話さないぞ』
『あっ、悪かった。大人しく聞く』
『珍しく素直だな。で、好きというより憧れだったと診るのが一般的な見方だと思うが、わたしの中ではまだ結論が出ていない』
『それで……』
『今でもそうだが、当時も本などを読んだ知識で頭でっかちだったわたしは彼に抱かれれば、こちらを振り向いてくれると思い、彼の部屋で、この身を曝した……』
『えっ、嘘……。それってありえないでしょ』
『そう、ありえない。だから簡単に諫(いすく)められた。それで終わり。わたしが意地悪な性格だったなら彼から性的虐待を受けそうになった、と世間に訴えることもありえたけど、それもない』
『そうね』
『だから……』
僅かな間。
『ああ、わかるよ、怖いんだね。感情を思いっきり表に出すのが……。あたしにもそういうこところがあるから……』
すると……。
『……』
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