petit four5 レモンタルトの輝きを(読み切り掌編:完結)

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petit four5 レモンタルトの輝きを(読み切り掌編:完結)

 幾度となく訪れた台風が落ち着き、すっかり気候は過ごしやすくなった九月の中頃。  愛知県名古屋市……の隣に位置する彩遊市にある『魔法菓子店 ピロート』にも、秋向けの商品がひときわ目立つようにディスプレイされている。  珍しい水晶栗を使った「クリスタル・モンブラン」に、その名もずばりな「紅葉ミルフィーユ」ハロウィンには欠かせない「変装カップケーキ」。いずれも通年商品ではあるが、月頭からの気候もあって、目に留めるお客が多い。  その横に、丸い黄色のタルトが並んでいる。他のケーキよりも一回り小さなそれは、つややかな表面の上に、真っ白なメレンゲが乗っている。値札には「新作!」の手書きポップが張ってあり、目にも鮮やかだ。 「十五夜に間に合って良かったなあ」  客側からショーケースを眺め、満足げにつぶやいたのは、店長の東八代だ。トレードマークの黒縁眼鏡の奧にある目は、新作のタルトを注視している。  その様子をカウンターの中から見ていたパティシエの天竺蒼衣は、きまりの悪い顔になる。 「本当にごめん。お店に出せるのがこんなぎりぎりになっちゃって」     
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