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蒼衣も件のタルトを見やる。「フルムーン・レモンタルト」と名付けたそれは、本当ならば九月の頭に店頭に出しているはずの商品だった。
そんな蒼衣を見た八代は「仕方ないさ」と明るく言う。
「試作を作ろうにも、今年の夏は各地で災害があって物流が混乱してたんだから。魔力含有食材だから、普通のやつじゃ代用できないし」
八代の言うとおり、地震や水害、台風など、自然災害が特に目立つ夏だった。その影響で、今回の新作に使う原材料がなかなか入荷してこない、というトラブルがあったのだ。魔力含有食材がないと「魔法菓子」にはならない。味もそうだが、魔法効果は普通の材料では再現不可能だからだ。
被災しつつも、どうにか使えるだけの材料を探し出してくれた生産者、連絡進捗などを取り次いでくれた卸業者など、さまざまな人の手を借りて、思いの外早く材料が入荷したのが今月頭だった。
件の生産者から、復旧作業が未だに続いていると聞く。そんな中、尽力してくれたことがうれしくも、申し訳なくあった。その上で「復旧してからもうちの商品を使ってくれれば」と言ってくれた生産者には、頭が下がる思いだった。
それはともかく。
どうにもならない天災の影響は確かにあったが、遅れたのはもう一つ原因があった。
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