petit four5 レモンタルトの輝きを(読み切り掌編:完結)

2/11
48人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
 蒼衣も件のタルトを見やる。「フルムーン・レモンタルト」と名付けたそれは、本当ならば九月の頭に店頭に出しているはずの商品だった。  そんな蒼衣を見た八代は「仕方ないさ」と明るく言う。 「試作を作ろうにも、今年の夏は各地で災害があって物流が混乱してたんだから。魔力含有食材だから、普通のやつじゃ代用できないし」  八代の言うとおり、地震や水害、台風など、自然災害が特に目立つ夏だった。その影響で、今回の新作に使う原材料がなかなか入荷してこない、というトラブルがあったのだ。魔力含有食材がないと「魔法菓子」にはならない。味もそうだが、魔法効果は普通の材料では再現不可能だからだ。  被災しつつも、どうにか使えるだけの材料を探し出してくれた生産者、連絡進捗などを取り次いでくれた卸業者など、さまざまな人の手を借りて、思いの外早く材料が入荷したのが今月頭だった。  件の生産者から、復旧作業が未だに続いていると聞く。そんな中、尽力してくれたことがうれしくも、申し訳なくあった。その上で「復旧してからもうちの商品を使ってくれれば」と言ってくれた生産者には、頭が下がる思いだった。  それはともかく。  どうにもならない天災の影響は確かにあったが、遅れたのはもう一つ原因があった。     
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!