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質の良さそうなノートと万年筆を目の前に、難しい顔だった。「書けない」という殴り書きは、悩みの発露に思えた。
蒼衣には、魔法菓子を食べたお客の感情が伝わってくるという、不思議な能力がある。彼が穏やかな気持ちで店を出たことは伝わってきたので、胸を撫で下ろす。
「思い出した」
いじめに遭った中学二年、学校や家族以外の誰かに話を聞いてほしくて、雑誌の文通コーナーに手紙を出したことがあったのだ。誠実なやり取りは、当時の心の支えになってくれた。
「恩返し、できてるといいなあ」
本人かどうかは神のみぞ知る。だが、本人でなくともいい。
おいしいお菓子で、自分もみんなも幸せにしたい。
それが天竺蒼衣という魔法菓子職人の願いであり、楽しさであり、幸せである。
◆文章系同人誌即売会「第8回Text-Revolutions」公式webアンソロジー掲載作品
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