1人が本棚に入れています
本棚に追加
警官も何事かと、入ってきたふたりを見た。
女性はピンクがかった赤のワンピース…というよりは、ドレスと呼ぶに相応しい衣装めいた服を身につけていた。
老人は、女性の華やかさとは対象的に、シンプルな黒いスーツを着ている。
(…貴族…?)
昭彦が思わずそんな言葉を思い浮かべてしまうほど、ふたりは浮世離れしていた。
「…あっ!」
昭彦と警官が驚きに呆然としている中、女性が机に置かれた財布に気づく。
「それですわ! わたくしのお財布!」
「え?」
昭彦と警官が同時に財布を見る。
女性は昭彦のそばにやってきて、彼の両手をいきなりつかんだ。
「あなたが拾ってくださいましたのね!? 本当にありがとうございます!」
「え? えぇ…!?」
両手をつかまれた昭彦は、視線を財布から女性へと戻さざるを得ない。
(あっ…いいにおい)
鼻先が彼女の方を向いた時、香水の芳香をダイレクトに感じて少しばかり頭がくらくらした。
彼が何も言えずにいると、女性は喜びの声をたたみかけてくる。
「ぜひお礼をさせてくださいまし! お時間ございますわよね!?」
「え、えっと、あの…その……?」
彼女の言葉で我に返った昭彦は、どうしたものかわからず警官に目をやった。
最初のコメントを投稿しよう!