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「このカード、とても大切なもので…わたくしがまだ小さい頃にお父さまからいただいた、バースデイカードなんですの」
「そう…なんですか」
「お父さまはずっと、世界中を忙しく飛び回っていて…わたくしがさみしい思いをしないようにと、このカードをくださったんですのよ。お父さまのそのお気持ちが、わたくしとても嬉しくて…これはわたくしにとって、何にも代えがたい宝物なのです」
「な、なるほど…」
相槌をうちながら、昭彦は女性を見つめる。
華やかなドレスとそれにまったく見劣りしない美貌が、彼の目を釘づけにしていた。
「……」
しかしふと、視線が彼女から離れる。
ほとんど魅了されかけていた彼にそんな行動を取らせたのは、心に浮かんだこの言葉だった。
(家族…か)
父親から大事にされ、そして娘も父親を大事に想う。
そんな麗しい家族愛を見せつけられた気がした。
もちろん女性にそんな意図はなかっただろうし、彼の事情などわかるはずもない。
そう理解してはいるものの、彼は自分の中に吹いた冷たい風を振り払うことができなかった。
「…?」
女性は、ふと首をかしげる。
それはあまりに、彼の心が冷たくなったタイミングに近かった。
「どうかなさいました? 元気がないご様子ですが」
「え? い、いえ、そういうわけでは…あはは」
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