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これまで仕事とストレスで痛めつけられていたところに、今度は逃亡者のような生活とそれに付随するストレスが加わったことで、彼の体は限界を迎えてしまったのだ。
緊急事態ということで、彼が持っていたスマートフォンから彼女に連絡が行った。
それを受けて病院にやってきた彼女は、ベッドに横たわる彼を見ると声を震わせてこう言った。
「あっくん…ごめんね、私…」
「……」
「がんばれって言うばっかりで、あっくんの気持ちわかってあげられなくて…」
「俺はやっぱり結婚できない。別れよう」
彼自身が驚くほど、その言葉はすっと出た。それを聞いた彼女は、ただずっと泣き続けていた。
昭彦はひとりになった。
さみしいとは思わなかった。
家に帰ってからも、恐怖の記憶が彼を苦しめた。
最も信頼し期待していた彼女との別れが、誰かに相談しようと思うこと自体を忘れさせていた。
ただそれでも、長い時間が過ぎていくことで少しずつ恐怖は薄まってくる。季節が変わるごとに、熟睡できる日も増えていった。
そして、彼女と別れてからちょうど1年がたった日。
「よう、昭彦じゃないか」
「お、おう…」
昭彦は昔の友人に声をかけられた。
正直なところ、昭彦側に話したいことは何もなかった。しかし誘われればむげに断るわけにもいかない。彼は友人とともに喫茶店に入った。
「元気そうだな。一時はヤバかったって聞いたぜ?」
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