縁のポートレイト:暖色

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「ああ…まあな」 「ブラック企業に引っかかっちまったんだろ? 大変だったな」 「…それより、何かあったのか?」  彼は当時のことを思い出したくなかった。そのため、敢えて話の腰を折る言い方をした。  すると相手は、少しばかりにやけながら彼にこう告げる。 「あの子、結婚したらしいぜ」 「…え?」 「お前の元カノだよ。その様子じゃ、やっぱり知らなかったんだな」 「……ああ」  彼はそう答えるのが精一杯だった。  それからも友人は何か言っていたが、彼にはもう何も聞こえなかった。  友人と別れた後、彼は鉛のように重くなった自身の体と心を引きずりながら家路についた。 (ははっ…そうか、結婚したのか)  彼女の笑顔と泣き顔が、ほぼ同時に思い出される。 (よかったじゃないか。幸せになれたんだな)  胸の奥がチリチリと痛む。  彼はそれをかばうように背を丸めた。 (よりによって今日、そのことを知るなんてな…ああ、そうか……)  口の端がわずかに歪む。  それは自虐の笑みだった。 (バチが当たったってヤツか。あの子を捨てた、バチが…) 「ふふふふっ」  閉じている唇から声が漏れる。  それを自分で聞いた彼は、素早く右手で口元を覆った。     
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