1人が本棚に入れています
本棚に追加
(おいおい…こんなとこで笑ってたら、ヤバいヤツだって思われるぞ)
そう思った彼はしかし、力なく微笑むと右手を下ろす。
(でも、もう…充分ヤバいか、俺…)
痛みが胸から消え、かわりに冷たい風のようなものが入り込んだ。
彼の背中はさらに丸くなる。
(何にも取り柄がないヤツが、どうにかがんばろうとして…もしかしたら人並みの幸せを手に入れられるかもしれないなんて期待した……そのこと自体が、バカみたいなことだったんだ。自分は何もできないクセに、他人に期待するばっかで…ははっ、笑える)
そう思った時、友人の笑顔が思い出された。
心に去来した冷たさは、それがどんな意味を持っていたのかを彼に教える。
(あいつ、俺を笑いに来たんだな)
歪んだ思いが、彼の中を満たした。
それと自虐が合わさり、歩く速度を大幅に下げさせた。
(そうだよな…俺が笑えるんだ、他人が笑えなきゃおかしい。あいつは、打ちのめされる俺を見たかったんだ)
仕事に追い詰められていた頃に感じていたものとはまた別の苦しさが、心を刺す。
あまりの痛さに、視界がぼやけ始めたその時だった。
(…ん?)
街路樹の陰に、財布が落ちているのを見つけた。
そちらへ近づき、迷うことなく拾い上げる。
最初のコメントを投稿しよう!