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持ってすぐわかったのは、その重さだった。
(おもっ…!)
形態としては長財布で、手で簡単に開くことができる。
なんとなく中身を見ると、重さが何に由来するのかがわかった。
(い、いくら入ってんだこれ…!?)
財布が重いのは、1万円札が束になって入れられているためだった。
昭彦は、これほど分厚い束になっている紙幣を今まで見たことがない。
(あるとこにはある…ってわかってるつもりだったけど……)
いざ実際に大金を目にしてみると、冷静でいることなどできない。
心臓は警鐘かと思うほど激しい鼓動を打ち、それまで暑さなど感じもしなかったのに今はシャツの中を汗が流れている。
(おれの金は、減り続けるばかりだっていうのに……!)
仕事に人生を押しつぶされた昭彦は、継続して働くということができなくなっていた。
働こうと考えるだけで苦しかった当時の記憶が蘇ってしまい、当日払いのアルバイトをするのもやっとという有様だった。
アルバイトの給料だけでは生活できないため、会社で働いていた時に結婚資金として貯めていた金を切り崩すことで、どうにか糊口をしのいでいた。
月がかわるごとに下がっていく預金額は、彼の上に垂れ込める暗雲の高度でもあった。
「……」
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