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赤い花
「わたくし、ほんとは青いお花なんですのよ」
ある日、僕が彼女の前を通りかかると、道端に咲いていた彼女が突然声をかけてきました。僕は驚いて、「そうなの?」と止める予定のなかった足を止めて、彼女に聞き返しました。
「でも、君、どこからどう見たって、血のような真っ赤な色をしているけれど」
「それはね、こうして。根っこにうんと力を入れると、頭に吸い上げた水がのぼって、赤くなりますのよ」
「じゃあ、今も?」
「ええ」
よくその真っ赤な花びらを支えられるな、と感心するほどに細い茎をしならせて、彼女はすまし顔で答えました。
「どうして赤い花びらにしようとするの? 青色がきらいなの?」
「それもありますけれど。以前に、たまたまわたくしが赤色でいたときに、それを褒めてくれた方がおりまして」
「きれいだね、って?」
「ええ。だからわたくし、その日から、赤色でいるようにしていますの。いつなんどき、あの方がいらしても良いように」
彼女は赤い花びらをひらひらと、優雅に風にそよがせました。
「ずっと根っこに力を入れてて、疲れたりしないのかい」
僕がそう聞くと、彼女はちょっとだけ困ったように茎を傾げました。
たまに、すこしだけ。そう言って、花びらをぼくからそらしました。
「でも、あの時から.....わたくしは『赤い花』になりましたから。今では周りの皆さんも、わたくしのことを『赤い花』だと思っていますから」
彼女の赤い花びらのさきっぽが、赤よりも深い紅色になりました。僕はそれを見て、なぜだか少し気の毒に思いました。
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