彼女はデートがしたい

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「は? 何を言っておる。でいとはでいとじゃよ。先週約束したじゃろ? 二人で行こうねって」 「…………ぇ?」  恐らく、よく同人誌である〝時間停止〟とかってこういう事を言っているのではないか。全ての時間が止まったと錯覚する一瞬。音は耳には届かず、窓から刺す陽光ですら止まっていると勘違いしてしまいそうになる。という事は実際は――。  などと脳内処理の追いつかない俺は訳の解らぬ悟りを開いてしまう。 「……なるほどなるほど。そういう事じゃったか。なるほどのぉ」  そんな俺を見つめていた夏目さんは、何かを察したようにくつくつと笑い出すと顔をネコムチに埋めた。  小刻みに動く彼女。それがただ笑っているのであれば、可愛いなぁとかで済む話なのだろう。しかしそんな幻想この世界には存在しないのだ。俺にとっては死への宣告のような、タイマーのような、ベルのような――駄目だ、上手く言えない! 「ひぃっ!」  焦る頭を冷やすためにも仕様もない事を考えていた俺は、彼女の笑い声の質が途中から変わっている事に気が付き驚く。これが普通の彼女であれば此処までビビり上がることは無いだろう。だが、うちの彼女は普通ではない。普通ではないのだ。  ガクガクと顎を鳴らす俺は、徐々に顔を上げる夏目さんを見つめ少しづつ後ずさっていく。 「フフフフ……なるほどなるほど。よぉぉぉく分かったぞ」 「な、何がで、しょか」 「フフフフ……そんなの一つに決まっとろう」  瞬間、夏目さんの俯いていた顔が一気に持ち上がり――。 「……ばか」  涙を一杯に溜めた瞳でそう呟くと、早足で寝室へと消えていった。  その様子に唖然とした俺は、勢いよく締められた扉にすくみ上りながらも、尚呆然とするしかなかった。
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