俺の彼女は人では無い

6/6
前へ
/13ページ
次へ
 今となっては慣れてしまい何の反応も出来ないが、流石の俺でも初めてこの姿を見せられた時は空いた口が塞がらなかった。何たって初めて見る本物の〝鬼〟。それが俺の初めて出来た彼女であり、今迄見ていた姿が嘘だというのだからたまったもんじゃない。  しかし、だからといって冷めてしまったり恐れおののくといった風にはならなかった。というか、最初は驚いたものの、よくよく考えると凄まじい美人さんが彼女ってとんでもないことじゃね? という馬鹿らしい考えに行き着いてしまったのだ。  それからは早いもので、化けれると言っても生活は不便だろうと考えた俺が彼女を自宅に招きそのまま同居。現在に至るというわけである。  しかしながら、結構この同居にこぎつけるまで問題が多く大変だった。なんせ俺は高校生。両親がいないから独り暮らしをしているのだが、当然周囲の大人たちはそれを知っている。何か困ったりしたらお隣さんに相談したり、今日もそうだったが買い物帰りに井戸端会議に身を投じたりと、周囲の大人たちとは友好な関係を築いていたから。  そんな俺が大人の女性と二人暮らしを始めたのだ。最初こそ皆「事件では?」やら「騙されている!」なんて心配して声を掛けてくれた。終いには大家さんが直々にやって来て理由を聞きにきたくらいだ。  学校でも問題になったりしたが、取り敢えず親戚が仕事の関係で此方に来たからという理由で乗り切ることが出来た。この理由を行使することで、夏目さんの機嫌が悪くなってしまったのは未だに可愛いと思う。  なんて昔の事を思い出しながら、俺は時間差で痺れが来た足を台所で止め、リビングでソファーに座り〝ネコムチ〟というデフォルメされた猫の縫いぐるみを抱きしめてテレビを見ている夏目さんを見つめて小さく微笑むのだった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加