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だからいつも優しく甘やかしてくれる父親の方に懐いた。
そのため余計に、自分が大好きな父と血が繋がっていなかった事実は、彼女の心に深い傷をつけた。
「私が知らないだけで、亜利紗にも見えない苦労があるのかな……」
「まあ、あるだろうね」
いつも口数少ない紫苑は、そう答えた後押し黙った。
自分とは全く立場も環境も異なる亜利紗に対し、少なからず共感を覚えて、花衣も口を閉じた。
しばらくもしない内に亜利紗は戻って来た。
そのすぐ後ろから見知らぬ婦人も現れた為に、花衣は慌てて立ち上がった。
紫苑もゆっくり立ち上がり、婦人に「小母様。ご無沙汰しております」と頭を下げる。
「いらっしゃい、紫苑さん」
外出時のシックなオフホワイトのスーツ姿で、華枝はゆったりと微笑んだ。
年を重ねてもいかにも良家の子女然とした優美な笑みが、静かに移動して花衣の方に向けられる。
「こちらのお嬢さんは、初めてお目にかかるわね。初めまして、亜利紗の母です」
「初めまして、里水花衣ですっ。お、お邪魔していますっ……」
花衣は急いでお辞儀した。
華枝は表情を変えないまま、焦った顔の花衣をじっと見つめた。
「里水、花衣さん……。亜利紗と一緒に、一色先生のショーに出てらした方ね」
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