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別世界のセレブな家に嫁ぐストレス、見知らぬ者達から好き勝手噂されるストレス、自分の至らなさを日々痛感するストレス、今の花衣はストレスまみれだった。
本当は、この部屋からも、一砥からも結婚からも逃げ出したい気分だった。
だがそれをすれば、自分が後で果てしなく後悔するとわかっているから、足が動かなかった。
重苦しい気分で、花衣はホテルのパジャマに着替えて浴室を出た。
一砥は窓辺に置かれた椅子の一つに腰掛け、ジャケットを脱ぎネクタイも外した格好で、窓の外を見つめていた。
「あの、お先にお風呂、いただきました……」
ためらいがちに声を掛けると、彼はただ「ああ」とだけ言った。
その素っ気なさにまた、花衣の胸がチクリと痛む。
「……食事は、どうする?」
問われて花衣は、一瞬押し黙った。
出来るなら辞退したかったが、亜利紗の家で食べたお菓子はとっくに消化され、正直言うとお腹が空いていた。
「あの、軽く、食べたいです……」
その返事を聞いて、一砥は目の前のテーブルに置いていた、ルームサービスのメニューを花衣に差し出した。
「好きな物を頼むといい。俺は、オードブルの盛り合わせとカベルネソーヴィニョンをグラスで頼む」
「わ、わかりました……」
花衣がメニューを受け取ると、一砥は立ち上がり、「俺も軽く汗を流してくる」と言って浴室に消えた。
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