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たかがルームサービスと言っても、一流ホテルのそれは味も見た目も一流だった。
花衣はクラブハウスサンドと紅茶を注文し、生まれて初めてサンドイッチを食べた子供のように、「美味しい!」と仰天して叫んだ。
「うわ、これ、私の知っているクラブハウスサンドじゃない……」
具を確かめながらしみじみ呟く花衣を、一砥は静かな眼差しで見つめていた。
ダイニングテーブルで向かい合って取る遅い夕食は、無言の一砥と、気まずさを隠すように独り言を呟く花衣、という、微妙な空気の中で粛々と進んだ。
空腹だった花衣はすぐに皿を空にし、紅茶もあっと言う間に飲み干してしまった。
向かい合った男の皿にはまだ半分料理が残っており、ワインも同様に減っていないことを確認し、花衣は遠慮がちに「あの、紅茶のお代わりと、デザートも頼んで、いいですか……」と訊ねた。
一砥は小さく、「ああ」と答えた。
彼の言葉少なな態度を、自分への抗議の現れと感じつつ、花衣は敢えて追加の注文をした。
いつでも正直でいろ、と言ったのは一砥だ。
ならばこのまま本音を押し通そう、と思ったのだ。
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