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「あ、私……確かに、明け方前に生まれたって……。え、それが、三時五十五分なんですか……?」
「なんだ、自分の生まれた時間を知らなかったのか」
からかうように言われ、花衣は「普通は知らないですよ……」と言い返した。
「確かに俺も、自分の生まれた時間は知らないな」
一砥は愉快そうに言い、「だけど君が生まれた時間は、ちゃんと知っておきたかったんだ」と続けた。
「君が誕生したその瞬間は、俺にとってもとても特別な瞬間だからな」
その一言で、花衣は胸がいっぱいになった。
さらに大きな手が伸びて来て、両頬を包むようにされた途端、感情が溢れて一気に涙が涙腺を刺激した。
無言で涙を流す花衣に、一砥はそっと口づけた。
「……愛してる、花衣。生まれて来てくれて、ありがとう」
優しく愛情に満ちたその言葉に、花衣は「ううっ……」と嗚咽した。
そのまま勢いよく、彼の腕の中にしがみつくように飛び込む。
広く温かな胸に顔を埋め、「うう、うう……」と肩を震わせ涙を流す。
一砥の自分に向けた思いが、その深い愛情が、ひたすらに有り難く、この上なく幸せだと思った。
「どうして……どうしてそんなに……」
……私を、愛してくれるんですか。大切にしてくれるんですか。
「どうして……?」
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