思い出の海

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結婚前によく来ていた海に、久しぶりに来てみた。 パンプスではやはり砂浜は歩きにくく、ゆっくりとしか歩けない。 何をするでもなく、波の音を聞き、ぼんやりするのも悪くない。 高く澄み渡った青空に手をかざして太陽を隠してみる。 左手の薬指に指輪をするようになったのは5年前。 「一生、大事にするよ」という言葉に涙を流し、嘘偽りのない誓いを交わした。 はずなのに…。 夫となったあいつの言葉は5年しか持たなかった。 一生のはずだったのに。 夫婦として、5年間はまだまだ未熟だと思う。 もっと一緒に歩んで行きたかったのが、私の本音。 でも、もう無理。 私と別れたら、夫はすぐ新しい生活が待っている。 知らぬ間に、離婚する前からあった生活。 青空にかざした手を胸元まで下ろして、薬指から指輪を抜く。 一生、大事にしたかった指輪。 思い切り海に向かって投げ捨てた。 思ったより飛ばなかったのが悔しいけど、やり直しは出来ない。 これですっきり、さようなら。
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