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わたしが自分の母に関し素直に驚くのは第二の才能があったことだ。ピアニスト時代も雑誌の編集者に頼まれ、時折エッセイを書いていたようだが、まさかその縁で作家デビューを果たすとは……。母には世界を巡ったピアニストとしての知名度があったから、小説を発表すれば、おそらく一作目は売れるだろう。が、才能がなければ、その先はない。けれども、わたしの母はそのハードルをいとも容易く飛び越える。三作目にして名のある賞を獲り、一流作家の仲間入り。最初の頃はピアニスト時代の体験を生かし、豪華なストーリィが多かったが、冊数を重ねるうちに方向性が変わる。豪華な部分はそのままに基本ストーリィに庶民感情を絶妙にブレンド。多くの人間が愉しめる仕様に変える。
残念ながら出版する本すべてがベストセラーになることはないが、殆どの小説でスマッシュヒットを続けている。時代の流れを考えれば凄いこと。わたしは素直にそう感じる。
わたしが指摘するまでもないが、母の小説は小説として良くできている。わたしには自分の母が書いたものだと信じることができないが……。例えば、ある登場人物が不幸な別の登場人物に向ける優しい眼差しが信じられない。わたしが母から冷ややかな眼差ししか送られたことがないからだろうか。わたしに対し、あれほど冷ややかな眼差しを向け続けることを意に介さない母に、そんな感情表現ができることがわたしには謎。わたし以外の人間にとって母は素敵な人間なのかもしれない。もしもそうであるなら、母が自分の書いた小説で優しい感情を表現できるのは当然だろう。
わたしだけが例外。わたしだけが愛されない。
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