2 秘

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2 秘

 わたしが所謂普通の子供だったら家出をしていたかもしれない。いや、それ以前に母を憎み、暴力を振るっていたかもしれない。が、事実、わたしは母を憎みもせず、暴力も振るわず、家出もしない。わたしには、そんな自分の感情が自分でまったく理解できない。例えば人に問えば、生まれた時からの母の洗脳の結果、という答が返るだろうか。ある意味それは正しいと思えるが、わたし自身は受け入れられない。母に叱られるのは辛いが、わたしは好きで兄の世話を焼いているからだ。母が兄を生んでくれて本当に嬉しいとも感じている。……ということは、わたしが母を憎まないのは兄がいるから、と帰結されるのだろうか。もしそうであれば、わたしは初めて己の心を知ったことになる。  そう、確かに、わたしは兄を愛している。子供の頃から兄を愛し続けている。     
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