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観念したら余計な力が抜けて
(開いたっ……)
バルコニーへ通じる鍵が開いた。
「お姉様……これ以上僕を追い詰めるとあなたの為になりませんよ」
後ずさりでバルコニーへ出ながら
僕は警告のつもりで指を突き立てた。
「僕が抵抗しないのは、身重のレディー相手に手荒な真似したくないからだ」
強い風に髪が煽られる。
「なら大人しく殺られるがいいわ」
聞く耳なんて持ってないって――?
貴恵の長い髪はほぼ全部逆立って
一層人間味を欠いた形相で僕に近づいてきた。
そして――。
「あんたが大人しくあの世へ行けば九条敬を生かしといて上げる。どう?」
「え……?」
フェアな取引のつもりか。
無茶苦茶な要求を押し付けてくる。
「そんなバカなこと……」
頭では分かっていたけれど。
僕は躊躇した。
心から九条さんを愛していたから――。
「ウッ……!」
その躊躇が一瞬の隙を作った。
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