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「謝って許されるとおまえ本当に思ってるのか?」
「え?」
今度は逆に薫が尋ねてきた。
「九条敬との関係にしても、腹の中の子の存在にしてもいまさらおまえが謝ったからってどうなると?」
少なくとも命だけはお助け願えるかも。
思ったけれどもちろん口には出さなかった。
「俺が思うにおまえの謝罪なんか――」
皿の上の油っぽいチキンにナイフを入れながら
薫は顔をしかめて言った。
「文字通り火に油を注ぐようなもんだろうな」
「火に油ですか」
火に油ならもう
十分に注いでしまったかもしれない。
「不味いチキンだ。食うか?」
毟り取られたガウンの羽の生温かさを
指先に思い出し。
「いいえ、結構。先に行きます」
「どこに?」
「次に行くべき場所にです」
思った以上に事態は深刻かもしれないと
伝票を取る僕の手は微かに震えた。
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