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咄嗟の事に言葉はなかった。
僕を見下ろす拓海は
ちょっとばかり愛しい人に似た目元を赤くしていて。
「拓海っ……!」
全てを吹っ切るかのように僕を跨いで走って行った。
残されたのは
凶悪な内緒話を聞かれた女と
命を取られるほど恨まれている僕だ。
おまけに――女としての誘惑に失敗した上。
一番知られたくない相手に
九条敬に未練がある事を知られてしまったのだ。
プライドの高い女王様にとって
これ以上の屈辱はなかった。
僕は――怒ればよかったんだ。
殺人鬼だ人殺しだと貴恵を罵れば。
そうすればまだ救いようはあったかもしれない。
でも
「お姉様……なんだか……ごめんなさい」
僕は謝ってしまった。
「なんですって……?」
こんな時に限って
えらく素直に。
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