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貴恵の口元が歪んで不自然に笑みを作った。
歯を食いしばったまま笑ったような怪奇的な笑みだ。
妊娠でホルモンバランスが崩れたせいだろう。
口元には隠しきれない醜い吹き出物ができていた。
ガウンが翻る。
妊婦とは思えぬスピードで貴恵は一旦書庫の奥へと姿を消した。
「お姉様……?」
さすがに恥じ入って身を隠したか。
僕は油断した。
この時、立ち上がってさっさと逃げ出せば
先に待つ大惨事を免れたかもしれないのに――。
だけど僕はそうしなかった。
天宮和樹はいつも愚か者なのだ。
好奇心旺盛な猫のように
危険の大元を確かめずにはいられなかった。
身を起こすと僕はそっと書庫の扉に手をかけて
中を覗き込んだ。
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